日本社会医学会
社会医学会レター
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
社会医学会レター
日本社会医学会 2008-1号 2008年12月5日発行
事務局

〒464-8601 名古屋市千種区不老町
 名古屋大学情報連携基盤センター 宮尾研究室
 Tel/FAX: 052-789-4363 mmiyao@med.nagoya-u.ac.jp

目次 ・第50回日本社会医学会総会 ご案内(第1報)
・第49回総会 特別講演Iの座長のまとめ
・日本社会医学会の総会が開催されました。
・第49回日本社会医学会総会のご報告
・日本社会医学会 奨励賞 が表彰されました。
・名誉会員が推薦されました。2名の先生方です。
・一般演題 発表討議のまとめ
・社会医学研究第25号が発行されました。
・会費の納入をお願いします。
・社会医学会ニュースへの感想、意見、投稿を
・「社会医学研究」にメールで投稿しましょう
・札幌医科大学への交通機関

第50回日本社会医学会総会 ご案内(第1報)

企画運営委員長 波川 京子 (札幌医大)

 来年の学会は、北海道で開催します。札幌医大の波川 京子が担当します。国の経済の動向が社会保障を左右する社会基盤の考え方は国民の心身を疲弊させています。国民皆保険・国民皆年金の崩壊、ヘルスプロモーションの健康づくりからメタボリック症候群に矮小化した健康政策は、国民が希求する健康を否定する方向に速度を速めています。国民の命と暮らしを大事にする、国民の生存権と健康権を国策の根幹に据える国づくりを考えたいと思います。また、第50回総会という節目の総会ですので、その特集も組みたいと思っています。
 会場は、札幌市中央区南1条西17丁目の札幌医大の臨床講堂、臨床1会議室などで、収容数はそれぞれ444名、120名と十分な広さです。時期は6月下旬で、まだ飛行機が安い時期です。全国からの参加をお待ちしています。

第50回日本社会医学会 総会企画
総会日時:2009年6月27日(土)〜28日(日)
開催場所:札幌医科大学 札幌市中央区南1条西17丁目

メインテーマ:<地域医療と生存権の再生> または
<医療格差の是正と生存権・健康権のルネッサンス>
特別講演:1題「現代の貧困と健康」(仮)
教育講演:1〜2題:自然保護、他
シンポジウム:2題:「第50回総会記念シンポ」、「開拓と医療」
要望課題・一般演題:公衆衛生行政、地域保健、医療問題、環境問題、感染症、薬害、HIV対策、労働衛生、メンタルヘルス、過労死、労働災害、雇用、学校保健、障害児・者福祉、ホームレス、高齢者保健、介護、大麻汚染、アスベスト
自由集会:ホームレスなど
懇親会:臨床教育研究棟地下1階「E−ダイニング」
事務局:札幌医科大学保健医療学部 看護学科 地域看護学領域
   〒060-8556札幌市中央区南1条西17丁目
地下鉄:南北線「さっぽろ」駅(JR札幌駅直結)から「真駒内」行に乗車、「大通」駅で東西線「宮の沢」行に乗換え「西18丁目」駅で下車、徒歩5分 タクシー:JR札幌駅から乗車10分

第49回総会特別講演Iの座長のまとめ(上畑鉄之丞)
HIV予防とグローバルスタンダード

徳永瑞子(聖母大看護)

 世界のHIV感染者約3,320万人のうち68%がサハラ砂漠以南のブラックアフリカである。演者が20年近くHIV患者救済で活動する中央アフリカ共和国も15歳以上人口の10.7%が感染者だが、正確な統計は困難である。国連は、2000年の「ミレニアム開発目標」で2015年までにエイズの蔓延を阻止、減少させるとしているが、達成は不可能視されている。
 アフリカでの住民へのHIV感染防止基準では、(1)VCT(voluntary counseling and testing)、すなわち無料検査の奨励、(2)安価にコンドームを販売する経路の拡大、(3)女性感染者への妊娠を控える指導などを行っている。
 医療現場では、(1)患者が注射器、包帯、手袋を持参、(2)使用済み医薬品の焼却、(3)医療器具の消毒(70%エタノール30分浸潤)、(4)HIV被爆後のCDCガイドラインの適応をおこなっている。
 母子感染防止基準ではUNICEFによるPMTCT(Prevention of Mother to Child Transmission)として検診時抗体検査、陣痛開始時のネビラピンの予防内服、新生児への24時間内のネビランシロップ投与を行っている。
 感染防止ではVCTの受診率向上が必要であるが、まだ10%未満に留まっていて、未受診の理由では「恐怖心」が最も多く、集団啓発教育の再検討が重要である。ARV(抗レトロウィルス剤)による感染防止拡大も急務である。

日本社会医学会の総会が開催されました。

 2008年7月12日東洋大学白山キャンパスで開催された第49回日本社会医学会総会で、関谷栄子企画運営委員長が議長となり、総会が開催されました。総会では、2007年度の学会活動、会計決算報告、2008年度活動方針、予算が決定されました。総会では、上畑理事長から、若干の役員の追加が提案され、承認されました。また、2名の名誉会員が提案され、承認されました。2008年度奨励賞が5名に授与されました。来年の第50回総会担当の波川京子先生が札幌への参加を呼びかけました。

第49回日本社会医学会総会のご報告

関谷 栄子(白梅短期大学)


総会日時:2008年7月12日(土)〜13日(日)
開催場所:東洋大学白山校舎 において開催されました。参加者は122名でした。
メインテーマ:<健康権の確立と共生社会を目指して>

 憲法25条の形骸化、公的責任の放棄、共助自助、健康・福祉政策の自己責任への転嫁に対し、現代社会に生じる新たな健康課題を社会医学の手法で解明した。健康障害に対する警鐘を鳴らし、政策課題への提言する社会医学を目指し、各専門分野からの研究報告30題の発表がよせられました。
 グローバル経済の破綻、地球環境の悪化、行財政破綻、労働環境悪化など健康への悪影響を糾し、権利としての健康を守り発展させる戦略などについてすぐれた報告がされました。
 特別講演は2題、聖母大学の徳永瑞子氏から「HIV予防とグローバルスタンダード」の講演がされました。HIVの感染は2007年末で3320万人おり死亡者数は1年に210万人います。感染防止基準を設け、母子感染の予防のための薬剤投与、無料検査などの対策を取っていますが、感染防止目標の達成は困難です。フオローアップ体制の確立がいそがれます。
 第二の特別講演は「貧困と健康格差」のテーマで近藤克則氏が愛知県における健康格差所得との関係を明らかにしました。ヨーロッパにおいては健康格差是正のための数値目標を挙げて支援しています。我が国における社会医学者の役割についてふれました。
 メインシンポジウムは「格差解消のための地域戦略」として星旦二氏が「健康格差の現状と課題解決方法としてのヘルスプロモーション」について述べました。「健康格差解消のための地域戦略」として亀岡照子氏はあいりん地区の保健師の立場から、武田敦氏は「ワーキングプアと呼ばれる若者たちからの問題提起」を首都圏青年ユニオンの立場から報告されました。生命維持と労働の権利などの基本的人権侵害に抵触する限界といえる状況に置かれている人々の支援についての実情が報告されました。教育講演2題で「健康生成論とストレス対処能力SOC研究のインパクトとチャレンジ」と題して山崎喜比古氏が、保健・医療・福祉・保育・教育の実践にインパクトを及ぼしているアントノフスキー博士が提唱したSOC概念を紹介しました。健康に生きる力として環境との相互作用や人生経験との一貫性について紹介しました。片平冽彦氏は「社会調査と統計の基礎」について講演し社会医学研究の基礎としての社会調査・統計の基本的学習について講演しました。

 一般演題では労働衛生、公害、薬害、感染症、アルコール依存症、障害者福祉、精神障害者の家族 高齢者の虐待、介護労働 看護師の腰痛問題、貧困問題、ホームレスの健康支援、育児支援、過労死、弱視児童の教育権保障、女性開業医の問題、公衆衛生・社会医学教育の問題点が報告されました。各自の専門領域からの知見が報告され熱心な研究に関心が高まりました。社会医学の守備範囲の幅広さがよくわかりました。人の健康と社会的背景に深くかかわる社会医学の立場では実践との関係をとわれることが多くなります。
 自由集会は4会場「後期高齢者の医療問題と特定健診問題」「公衆衛生・社会医学の教育・人材育成の現状と課題」「看護師の腰痛予防について」、「薬害の副作用の問題」が検討されました。おかげさまで中身の濃い自由集会でした。会場の設営やパワーポイントなどの管理には東洋大学片平研究室の大学院生の皆様にお世話になりました。また受付や司会などには東京の保健師さんのご援助とご協力によります。改めて御礼申し上げます。なお8月には反省会をもちまして、地方会の再開を約束いたしました。札幌に何らかの報告ができるとよいと思います。皆様ありがとうございました。

日本社会医学会 奨励賞 が表彰されました。

 第49回日本社会医学会で、以下の5名が奨励賞として表彰され、賞状と記念品が上畑理事長から授与されました。

田崎陽子(福岡医療団千鳥橋病院)「貧困に脅かされる妊産婦の実態」
横山由香里(東京大学大学院)「薬害HIV感染長期生存患者におけるQOLの変化とその要因」
石濱 照子(中野区中部保健福祉センター)「中野区特定高齢者候補者における運動機能と抑うつ気分について」
高 燕(首都大学東京)「都市部在宅前期高齢者における就労状態別にみた3年後の生命予後」
戸ヶ里泰典(山口大学大学院)「ストレス対処能力SOCの社会階層間格差の検討」

名誉会員が推薦されました。2名の先生方です。

石川 孝夫 先生(関東)
山崎 京子 先生(関東)

一般演題 発表討議のまとめ

西山勝夫 滋賀医科大学名誉教授
A-1: 門田は「東京土建国保統一検診から見える建設労働者の労働関連疾患」について講演した。講演に先立って講演集の抄録と差し替える全面的に修正された抄録が配布された。2005年より組合員とその家族約23万人を対象に毎年検診を実施し、結果の個人通知は2週間いないに行っているが、受診率は30-40%、組合員の受診率は男女とも22%前後であった。質疑では、(上畑の)質問「非従事者の訴えも高率であることをどう考えるか」答「受診者の感じたままの答えであり、例えば騒音を測定した訳ではない」、(前田の)質問「建設労働者のとらえ方はいかがか、昔はプロ集団であったが今は派遣労働者がどんどん組み込まれている。建設労働者としての研究や課題は何か」答「東京土建では臨時雇用者も入れて検診を実施しているが30%前後の受診率であり、その向上が必要である」があり、(林から)「高校の養護教諭の経験では耳のよい子が殆どなのに、これほど高率に耳を壊しているのを聞いて驚いた」(高鳥毛から)「職歴的には労働関連疾患が出てくる年齢ではないのにこれほど訴えが高率であるのはなぜか考えてみなければならない」という意見がだされた。
A-2: 服部は「自営業者の死因調査 ICD-10の原死因に基づく再評価」について講演した。全国商工団体連合会(共済会)の毎年の加入者死亡の原因は死亡診断書の読み方を知らない担当者などによって死因選択がなされてきたので唯一存在する公的統計である人口動態統計自営業と比較・検討するのには限界があった。そこで服部らは2006年度についてICD-10の原死因で分類し、人口動態統計自営業と比較した。「共済会の全死因SMRが低いのは健康労働者効果と考えられるのはなぜか」という(西山の)質問に対し「収入が少なくなった業者は奪回する傾向があることから推察できる」という答があり、(上畑からは)「低いSMRは無職が入らないなら健康労働者効果といって差し支えない」という意見が出された。
A-3: 戸ヶ里は「ストレス対処能力SOCの社会階層格差の検討」について講演した。追加資料として投影予定のPPTファイルの複写が配布された。SOCの詳細については共同発表者である山崎の教育講演「健康生成論とストレス対処能力概念SOCのインパクト」を参照するとよい。本研究はSOCが幼少期における課程の社会的役割やその後の人生経験により形成・規定されるというAntonovskyの仮説の検証を試みている。質疑では、質問「日本人のSOCは上がってきているのではないか」答「そのような研究はない。『上がってきている』根拠を聞きたい」質問「日本人の教育水準の向上が反映しはしないか」答「幼少期後の学歴、職業などの人生経験によって反映されていると考える」、(服部の)質問「SOCと宗教的信念の関連はSOCではどのように考えられているか」答「スピリチュアリティという枠組みで考えられていて、SOCがスピリチュアリティと精神的健康に影響を及ぼしている可能性が示唆されている。宗教的信念の関連はSOC研究の課題であろう」があり、(千田からは)「青年期に遭遇する困難の経験がそれ以降に大きく影響すると思うのでもう一つ区切りがいるのではないか」という意見がだされた。

山本 繁(尼崎市)
 B−7の介護保険現場からの制度の矛盾と提言において、吉野裕子氏(あじさいの会)は介護保険制度の二度に渡る報酬引き下げによって、介護現場に萎縮と硬直が生まれ、ホームヘルパーの離職率を高めていると報告した。また、先に成立した介護等人材確保法による介護職の労働環境への影響はまだ見えないとした。
 B−8のアルコール依存症患者の社会的孤立と孤独死において、荒木弘幸氏(千鳥橋病院)は、アルコール外来に通院中の71人の中で死亡した15人を分析すると、孤独死8人と非孤独死7人の分析でき、孤独死が多いことを報告した。その特徴は(1)離婚暦経験あり、(2)生活保護受給中であり、(3)他者との交流が希薄である、(4)重篤な合併症をもつ、とした。
それらの「喪失の回復」援助を強調したが、フロアからの質問に答えて、アルコール依存症患者の集まり(A・Aグループなど)は重要ではあるが、支援は難しいとした。
 B−9新宿における野宿者の健康において、大脇甲哉氏(新宿連絡会・医療班)は、2004年9月から実施の(東京都及び新宿区等の共同事業である)ホームレス地域生活移行支援事業によって、新宿に生活圏を有する野宿者は明らかに減少し、その健康状態でも重篤者が少なくなったが、年末年始の越年期に流入して来る新規の野宿者には重症疾患を持つ割合が高いと報告した。そこで、今後はこうした野宿一ヶ月以内の超短期者への健康支援活動の重要性を強調し、大きな課題とした。

千田忠男 (同志社大学)
A-10 過労死事例から見た海外出張・派遣労働者の健康保持の課題(上畑鉄之丞、過労死・自死相談センター)
発展途上国に出張・派遣の労働者の過労死事例が紹介され、労働生活環境の激変や孤立しがちなままに過度労働に従事して過労死に至る事態と、労災補償を得るにも困難な事情が指摘された。追加発言で、かつてエリートのキャリアパスとして機能していた欧米への出張・派遣とともに、それとは役割が違う例がアジアを中心に多くなってきた、そこでは安易に使い棄てられる傾向が見られるという指摘があった。過労死・自死の日本発グローバリゼーションという深刻な事態が指摘された。
A-11 オーストラリアにおける看護師の腰痛予防の取り組み(重田博正、大阪社会医学研究所)
看護師が人力のみで患者を持ち上る活動を極力減らす、そのために必要な安全衛生教育を徹底し機械装置も有効に利用する、その効果をモニタリングしながら支援を継続する、というオーストラリアでの取り組みが紹介された。労働安全衛生を現場で実現するための枠組みをわが国で考案する上で、まことに貴重な事例であった。
看護活動は看護師と患者の協同的な活動でもあるので、患者の評価も重要であろうという疑問が出されたが、紹介された文献では省略されているが、実際の取り組みの中では患者の評価も十分に行われて予想以上に好評である、との追加発言があった。
A-12 生活時間調査に基づく女性開業医への診療支援策の検討(垰田和史、滋賀医科大学、他)
女性開業医の働き方について緻密な生活時間調査から発言した例はごく少ない。女性医師・歯科医師の平均的な実像としては、週にほぼ45時間働き、母親が家事援助者として長時間診療を支えている。勤務医が名ばかり管理職のもとで当直を含む極限長時間労働を担っているとき、協力関係を担う女性開業医師の働き方を解明した意義はきわめて大きい。

舟越光彦(九州社会医学研究所)
このセッションはアスベスト関連の3題の報告だった。
 「零細事業所健診にみる石綿関連疾患と社会医学上の課題」(広瀬俊雄先生)では、長期に健診で担当してきた零細なアスベスト関連事業所(建築、電工、ボイラー)でのアスベスト関連所見と作業場の背景等について報告あった。アスベスト曝露に特徴的な胸膜プラークの有所見率が27.3%から75%と高率であったが、アスベストを直接扱わないものの周囲での作業による間接曝露があること、アスベスト専門業者ほど十分な曝露対策をなされずに作業に従事していることなど零細事業所には課題が多いことが紹介された。アスベスト健診の費用援助や、健康管理手帳の交付要件の緩和、高性能防塵マスクの支給などの対策が求められることが強調された。
 「東京・大田地域でのアスベスト被災対策の取り組み(第2報)」(色部祐先生)では、東京・大田区にあったM石綿工業の元従業員と周辺住民の健康被害について報告があった。2008年2月から3月に大田区が実施したアスベスト無料健診の結果では、期間中に916名が受診し関心が非常に高いこと、労働現場での曝露経験のない住民の胸膜プラークの有所見率が1.5%(9/607名)であったことが紹介された。大田区の専門家委員会は環境曝露での胸膜プラーク有所見率が尼崎等の他地域と比較して低いと評価しているが、中皮腫で療養中の患者が含まれていないなどの不十分さがある点を指摘し、同地域でのアスベスト被害の実態の解明と対策の確立の必要性が強調された。
 「建設労働者のアスベスト被害の実態と問題点」(青木珠代先生)では、労災申請等の援助をした建設労働者のアスベスト被害の実態と問題点について報告があった。建設労働者の場合、勤務先を転々とすることが多いために過去の事業所証明の取得ができずに労災申請が困難となる事例が多いこと、労働者性が問題となり労災が適用されない事例が少なくないことが紹介された。建設労働者は労働者集団として最もアスベスト曝露の多い集団であり、労災などによるによる適切な救済と今後の新たな曝露を防御するための対策が求められる。

平田 衛(独法・労働安全衛生総合研究所)
B-13 「弱視児童生徒の教育を受ける権利を誰が保証するか」高柳泰世先生他
 様々なタイプの弱視を有する児童生徒の教科書は拡大教科書と言われ、従来ボランティアによりオーダーメイドで作成されてきた。これらは08年6月制定の所謂「教科書バリアフリー法」により、配布が義務づけられたが、主体が不明確であった。拡大教科書は、文科省が計上した予算により、文科省の責任において、教科書製作会社が編集者と密に協議して、オーダーメイドで作成するべきであることが報告された。
B-14「大学と社会との協働した公衆衛生大学院教育プログラム」高取毛敏雄先生
 我が国には様々な公衆衛生に係わる問題があり、特に大阪には顕著である。これらの解決には、研究者養成を任務としてきた従来の大学院教育と異なり、問題解決型の公衆衛生専門家を、大学院修士レベルで育てる必要があるが、漸く緒に付いたばかりである。英国の各大学の養成課程を参考にしつつ、大阪大学における上記専門家の養成を始めるにおいて、大阪における公衆衛生上の問題解決を意識して次演題における活動との結合が考慮されている。
B-15「大阪における公衆衛生・社会医学教育の実践」逢坂隆子先生他
 NPO法人大阪ヘルスサポート(HESO)は、西成区におけるホームレスなどの深刻な保健・医療・福祉の課題に関する実践をおこなっている。厚労科研・文科科研の研究実施における人手不足を学生・院生で補うことから、教育の実践を始め、今日では近畿各地のみならず、外国の学生もボランティアも参加している。外国ではスラムや路上生活者のことを当たり前に医療福祉の学生が知っているのに対して、日本の医療福祉の教育は現実離れしていると指摘された。

片平 洌彦(東洋大学)
A―7. 検証されずに風化する薬害、国と専門家はMMRワクチンの検証を! 全国薬害被害者団体連絡会議 栗原敦
 栗原氏は、MMR被害児を救援する会の立場から、MMRワクチン事件は、既に裁判で国の指導監督責任が認められているが、その後、91年4月に二次感染発生を予研等が確認しながら、なおワクチン接種を続行したことや、有効期限切れワクチンの使用を厚生省・自治体・MMR研究班が放置したことが近年確認されたことを指摘し、今後同様の被害防止のため、迅速な情報収集体制や評価のシステム、法的規制が検討されるべきと述べた。
A−8. 医学研究と利益相反―薬害イレッサ事件にみる利益相反
市民共同法律事務所 中島晃
中島氏は、薬害イレッサ事件を担当している弁護士の立場から、医学研究における利益相反の問題を取りあげた。この問題は、海外では研究の公正さを担保する上で深刻な問題として受け止められているが、日本では問題意識が欠如したまま研究者が企業の寄付金を受け取ることが一般化してきており、タミフル事件で問題となったが、イレッサ訴訟においても、治験調整医師が代表者を務める臨床機構に対して製薬会社から数年間にわたり毎年約2000万円の寄付がされてることが明らかになっており、そうした情報の開示や公表の義務づけが必要であると指摘した。
A−9. 薬害HIV感染長期生存患者におけるQOLの変化とその要因
東京大学大学院医学系研究科 横山由香里 ほか
横山氏は、薬害HIV感染後1998年迄生き抜いてきた長期生存血友病患者を対象に、2005年迄の7年間に生じた変化の実態を報告した。87名の分析の結果、CD4細胞数は改善したが、血友病の重症度や肝臓疾患では悪化傾向が認められ、精神健康・暮らし向き・差別不安由来の生活行動自主規制・情緒的サポートネットワークサイズでも有意な悪化が認められた。クロス集計による分析の結果もふまえ、今後、身体面、心理社会面における支援や経済的基盤を確立するための経済的援助や就労支援を強化していくことの重要性が示唆されたと結論づけた。

社会医学研究第25号が発行されました。

 2007年号ですが、遅れて2008年3月に発行され、会員に配送されました。第25号まで、編集委員長をつとめていた山田裕一先生の編集後記を引用します。
 私事ながら、勤務先大学内での職務が変わり、本紙「社会医学研究」の編集業務を円滑に行うことが困難になり、本号の編集作業に大きな支障をきたしてしまいました。大変申し訳ありません。2007年内の発刊を目指していましたが、とうとうこの時期まで遅れてしまいました。なんとか「年度内」という言い訳ができる範囲内の遅れであればと願っています。
 Publish or perishということばは、けっして好きではありませんが、大学というところに身を置いている限りは、無視するわけにはいきません。実際、研究すること自体は好きだし、早いけれども、論文を書くことはきわめて遅いという人がいることは知っています。しかし、誤解を恐れずに言えば、論文を書けるように研究を出来ない人は、やはり良い研究者とは言いがたいと思うのです。勿論、論文化を意識しすぎるあまり、データの捏造は言語道断だとしても、研究テーマを狭く絞りすぎて、論文にはなったものの社会には何のインパクトも与えない内容の浅いものになってしまうというのも問題だとは思います。それにしても、論文にしないで社会影響がゼロのままより、幾分かはインパクトを与えるかも知れない分だけ、論文化することに意味はあると言えるでしょう。
 書き上げた原稿はできるだけ早く印刷され、公表されたいものです。投稿から査読、発刊までの時間は短いほど喜ばしいものです。そんな雑誌なら、論文を書き上げたと同時に、気軽に投稿も出来ると言うものでしょう。本誌の発刊の迅速化(その結果として複数号発刊)は本当に必要です。そんな思いを引き継いでいただける方に、編集長の重責をお願いしたいと思っています。

社会医学研究編集委員長
山田 裕一
金沢医科大学・学長 社会環境保健医学(衛生学)
第25号の内容は、インターネットでも読めます。
http://ergo.itc.nagoya-u.ac.jp/shakai-igakukai/

「社会医学研究」第25号の目次は下記のとおりです。

−総説−
1. 韓国における産業医学の歩みと展望(金 良昊)
2. 大阪におけるホームレスへの健康支援―社会医学を学ぶ者たちの実践的研究―(逢坂隆子、他)
3. 建設業をめぐる石綿問題と今後の課題(柴田英治、他)
−原著−
4. 都市部青壮年女性の就業状態における生活満足感の規定要因に関する研究(高 燕、他)
5. 病院勤務からの離職を希望する医師の労働負担と疲労(垰田和史、他)
6. 患者の立場からみた心の病の職場復帰(藤野ゆき)
7. 都市在宅高齢者における精神的健康と身体的健康の経年変化とその因果関係(劉 新宇、他)

会費の納入をお願いします。

 同封された郵便振替(00920-6-182953日本社会医学会)の用紙で、2008年度会費と未納分を、納入してください。2009年度分の前納も歓迎です。日付の記入のない部分が未納分です。
 また、銀行振込(名古屋銀行 本店営業部普3761624 日本社会医学会)もあります。銀行の場合、口座名が会員名と異なるならば、その旨FAX(052-789-4363)やメールでご連絡ください。

社会医学会ニュースへの感想、意見、投稿を

 2008年度第1号(2008年12月発行)はいかがでしたか。会員の皆さまの投稿をお願いします。

「社会医学研究」にメールで投稿しましょう

編集委員長 宮尾 克

 第26号については、暫定的に学会事務局の宮尾克が、編集委員長をつとめています。
 「社会医学研究」への投稿は、査読、改訂などを迅速化するために、原稿を電子ファイルとして以下のメール・アドレスへ送付されることを勧めます。 mmiyao@med.nagoya-u.ac.jp
 電子ファイルでは、本文および表は、「MS Word」または「一太郎」を用いてください。図もGIF、TIF、JPEG、BMP、PDFで送付してください。図表は可能なら、PDFも重複してお送りください。
 宮尾克編集委員長 〒464-8601 名古屋市千種区不老町
          名古屋大学情報連携基盤センター

札幌医科大学への交通機関

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